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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)1630号 判決

主文

一  原判決中、別紙目録記載の土地に関する部分を取り消す。

二  被控訴人四ツ橋留蔵は控訴人らに対し、別紙目録記載の土地について、神戸地方法務局赤穂出張所昭和三二年五月六日受付第九二二号所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をせよ。

三  被控訴人藤井良美、同高原福子、同横瀬清子、同藤井淳子は控訴人らに対し、別紙目録記載の土地について、神戸地方法務局赤穂出張所昭和四三年一一月一一日受付第六二五九号所有権移転請求権の移転付記登記の抹消登記手続をせよ。

四  被控訴人藤井良美、同高原福子、同横瀬清子、同藤井淳子は控訴人らに対し、別紙目録記載の土地を明け渡せ。

五  別紙目録記載の土地についての被控訴人藤井良美、同高原福子、同横瀬清子、同藤井淳子の反訴請求を棄却する。

六  訴訟費用は第一、二審を通じこれを四分し、その三を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  主文第一ないし第五項同旨。

2  訴訟費用は第一、二番とも被控訴人四ツ橋留蔵及び被控訴人亡藤井平治訴訟承継人らの負担とする。

旨の判決。

二  被控訴人ら

1  被控訴人四ツ橋留蔵

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人らの負担とする。

との判決。

2  被控訴人四ツ橋留蔵を除くその余の被控訴人ら

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 原判決主文第二項中、別紙目録記載の土地に関する部分を訴訟承継により次のとおり変更する。

控訴人らは被控訴人藤井良美、同高原福子、同横瀬清子、同藤井淳子に対し、別紙目録記載の土地につき、同被控訴人らの被相続人亡藤井平治のため、神戸地方法務局赤穂出張所昭和三二年五月六日受付第九二二号所有権移転請求権仮登記(昭和四三年一一月一一日受付第六二五九号所有権移転請求権の移転付記登記)に基づく所有権移転の本登記手続をせよ。

(三) 控訴費用は控訴人らの負担とする。

旨の判決。

第二  当事者の主張

一  本訴について

1  控訴人らの請求原因

(一) 木村孫治郎(以下「孫治郎」という。)は別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していたが、昭和三七年三月四日死亡し、控訴人らが相続により孫治郎の権利義務を承継した。

(二) 本件土地には被控訴人四ツ橋留蔵(以下「被控訴人四ツ橋」という。)名義の神戸地方法務局赤穂出張所昭和三二年五月六日受付第九二二号所有権移転請求権保全仮登記(以下「本件仮登記」という。)が、また同被控訴人を除くその余の被控訴人ら(以下単に「その余の被控訴人ら」ともいう。)の被相続人藤井平治(以下「藤井」という。)名義の同法務局同出張所昭和四三年一一月一一日受付第六二五九号前記所有権移転請求権の移転付記登記(以下「本件付記登記」という。)がそれぞれ経由されている。

(三) 藤井は昭和五六年一一月一二日死亡し、その余の被控訴人らが相続により藤井の権利義務を承継し、かつ、同被控訴人らは本件土地を占有している。

(四) よつて、控訴人らは、被控訴人四ツ橋に対し本件土地につき本件仮登記の抹消登記手続、その余の被控訴人らに対し本件土地につき本件付記登記の抹消登記手続及び明渡を求める。

2  請求原因に対する被控訴人らの認否

(一) 被控訴人四ツ橋

請求原因(一)、(二)の事実は認める。

(二) その余の被控訴人ら

請求原因(一)ないし(三)の事実は認める。

3  被控訴人らの抗弁

(一) 被控訴人四ツ橋

孫治郎は昭和三一年一二月一五日被控訴人四ツ橋との間で本件土地について売買契約を締結し(以下「本件売買契約」という。)、代金の完済も受けた。そして、本件売買契約に基づき本件仮登記が経由されたものである。

(二) その余の被控訴人ら

(1) 孫治郎は昭和三一年一二月一五日被控訴人四ツ橋との間で本件売買契約を締結し、代金の完済も受けた。そして、本件売買契約に基づき本件仮登記が経由された。

(2) 孫治郎は昭和三七年三月四日死亡し、控訴人らが相続により孫治郎の権利義務を承継した。

(3) 被控訴人四ツ橋は昭和四三年一一月四日藤井に対し本件土地の買主たる地位を譲渡し(以下「本件地位譲渡契約」という。)、右に基づき本件付記登記が経由された。

4  抗弁に対する控訴人らの認否

(一) 被控訴人四ツ橋の抗弁に対し

認める。

(二) その余の被控訴人らの抗弁に対し

(1) 同抗弁(1)、(2)の事実は認める。

(2) 同(3)の事実中、本件付記登記が経由された事実は認めるが、その余は不知。

5  控訴人らの再抗弁

(一)(1) 本件土地は本件売買契約当時から農地であつた。

本件土地は、昭和五〇年七月の現地調査の際にも、いずれも水田又は畑として耕作されていたもので、当時藤井の雇人と称する男が農作業に従事していたものである。現在休耕中としても、それは本訴提起後に藤井又はその余の被控訴人らが耕作を中止したものにすぎず、農地であることに変わりはない。

(2) そうすると、本件売買契約は農地法三条の許可を法定条件とするものであつたところ、その締結日である昭和三一年一二月一五日から一〇年経過した同四一年一二月一五日の経過により、被控訴人四ツ橋の、孫治郎の相続人である控訴人らに対する農地法三条の許可申請を求める権利(以下「許可申請協力請求権」という。)は時効完成により消滅し、農地法三条の許可を得ることは不能となつたので、本件売買契約によるも本件土地の所有権は移転しないことに確定し、右所有権は確定的に控訴人らに帰属することになつた。

(二) 仮に、本件地位譲渡契約が成立したとしても、控訴人らは右地位譲渡を承諾していない。

6  再抗弁に対する被控訴人らの認否

(一) 被控訴人四ツ橋

(1) 再抗弁(一)の(1)の本件売買契約当時本件土地が農地であつたことは認める。

(2) 同(2)の主張は争う。

(二) その余の被控訴人ら

(1)(ア) 再抗弁(一)の(1)の事実は否認する。

本件土地は本件売買契約当時から全く肥培管理の行なわれていない山林、荒地であり、非農地であつた。

なお、仮に、本件売買契約当時本件土地が農地であつたとしても、本件地位譲渡契約当時は非農地であつたから、遅くともこの時点で所有権移転の効果は生じている。

また、昭和四六年ころ及びそのころ以後本件土地は雑木、茅、雑草が繁茂し、原野の状態である。そして、雑草特に茅の根は密生しており、これを耕作に適する状態に戻すには莫大な費用と労力を必要とするから、簡単に耕地として使用できず、休耕地にも該当しない。

(イ) 同(2)の主張は争う。仮に、本件土地が農地であるとしても、許可申請協力請求権は債権ではなく、物権的請求権であるから、消滅時効にかからない。

(2) 再抗弁(二)の事実は否認する。すなわち

(ア) 藤井は本件付記登記経由の直接控訴人らに対し右登記経由の事実を告げたところ、控訴人らは本件地位譲渡契約による買主の地位譲渡を承諾し、右付記登記に基づく本登記手続をすることをも承諾した。

(イ) 控訴人らは昭和四六年ころにも、藤井が本登記手続を依頼した司法書士松本広志に対し、本登記手続をするための書類である控訴人木村志川、同本村雅子の相続権放棄証明書、印鑑証明書各一通ずつを預けており、このことからしても、控訴人らの承諾の事実は明らかである。

7  その余の被控訴人らの再再抗弁

(一) 仮に、許可申請協力請求権が債権だとしても、藤井は同請求権者としての地位を被控訴人四ツ橋から本件地位譲渡契約により譲り受けたものであるところ、控訴人らは前記6の(二)の(2)の(ア)、(イ)の事実により、また、昭和四八年七月二六日付内容証明郵便によりいずれも藤井に対し本件土地についての本登記手続義務を承認し、もつて時効利益の放棄をしたものである。

(二) 孫治郎は農地法三条の許可を得る努力をせずに死亡し、その相続人である控訴人らも右努力をしなかつた。

このような控訴人らが許可申請協力請求権の時効消滅を主張することは信義則に反し権利の濫用である。

(三) 仮に控訴人ら主張のように昭和四一年一二月一五日に許可申請協力請求権が時効消滅したとしても、本訴はその後九年余を経過した昭和五一年二月九日に提起されているが、右九年余にわたり控訴人らから藤井に対しなんらの請求もなかつたことは、控訴人らにおいても本件土地につき藤井の所有権を黙示的に認めていたといえるものであり、本訴請求は著しい権利濫用に該当するものである。

8  再再抗弁に対する控訴人らの認否

(一) 再再抗弁(一)の事実中、控訴人らが前記6の(二)の(2)の(ア)、(イ)の事実により、また昭和四八年七月二六日付内容証明郵便により、いずれも藤井に対し本件土地についての本登記手続義務を承認したことは否認する。

(二) 同(二)の事実は否認する。

孫治郎は、本件売買契約後、農地法三条の許可を得るために、被控訴人四ツ橋とともに努力したが、同被控訴人は農地を譲り受ける資格を有せず、許可の出る見込のないまま孫治郎は死亡し、同被控訴人もその後控訴人らに対して許可を得るについての協力を求めなかつたものである。

(三) 同(三)の主張は争う。

二  反訴について

1  その余の被控訴人らの請求原因

(一) 本件土地はもと孫治郎の所有であつたところ、同人は昭和三一年一二月二五日同土地につき被控訴人四ツ橋との間で売買契約を締結し(本件売買契約)、代金の完済も受け、右売買に基づき本件仮登記が経由された。

(二) 孫治郎は昭和三七年二月四日死亡し、控訴人らは相続により孫治郎の権利義務を承継した。

(三) そして、被控訴人四ツ橋は昭和四三年一一月四日藤井に対し本件土地の買主たる地位を譲渡し(本件地位譲渡契約)、右に基づき本件付記登記が経由された。

(四) 藤井は昭和五六年一一月一二日死亡し、その余の被控訴人らが相続により藤井の権利義務を承継した。

(五) よつて、その余の被控訴人らは控訴人らに対し、本件土地につき藤井のため本件仮登記(本件付記登記付き)に基づく所有権移転の本登記手続を求める。

2  請求原因に対する控訴人らの認否

(一) 反訴請求原因(一)、(二)の事実は認める。

(二) 同(三)の事実中、本件付記登記が経由された事実は認めるが、その余は不知。

(三) 同(四)の事実は認める。

3  控訴人らの抗弁

本訴における控訴人らの再抗弁のとおりである。

4  抗弁に対するその余の被控訴人らの認否

本訴における再抗弁に対するその余の被控訴人らの認否のとおりである。

5  その余の被控訴人らの再抗弁

本訴におけるその余の被控訴人らの再再抗弁のとおりである。

6  再抗弁に対する控訴人らの認否

本訴における再再抗弁に対する控訴人らの認否のとおりである。

第三  証拠関係(省略)

理由

第一  控訴人らの本訴請求について

一  控訴人らの本訴請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがなく、同(三)の事実は、被控訴人四ツ橋においては明らかに争わず自白したものとみなされ、また、その余の被控訴人らとの間においては争いがない。

二  被控訴人四ツ橋の抗弁事実及びその余の被控訴人らの抗弁(1)、(2)の事実も当事者間に争いがない。

三  その余の被控訴人らの抗弁(3)について判断するに、本件付記登記が経由されていることは当事者間に争いがなく、右事実のほか、成立に争いない甲第四号証の一、三ないし七、二九、三一ないし三六、原本の存在及び成立に争いのない乙第六、第七号証、当審証人木村元昭の証言によつて成立が認められる乙第四号証、官署作成部分についてはその方式及び趣旨により公務員が作成した真正な公文書と推定すべく、その余の部分については弁論の全趣旨によつて成立が認められる乙第五号証、原審証人四ツ橋しげ子、当審証人木村元昭の各証言、原審における被告藤井平治本人尋問の結果によれば、被控訴人四ツ橋が昭和四三年一一月四日藤井に対し本件土地の買主たる地位を譲渡したこと(本件地位譲渡契約)及び右に基づいて本件付記登記が経由されたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  そこで、控訴人らの再抗弁(一)について判断する。

1  前掲の乙第六、第七号証、原審証人四ツ橋しげ子、当審証人木村元昭(ただし、後記措信しない部分を除く。)の各証言、原、当審における控訴人木村英雄本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合せ考えると、本件土地は本件売買契約の直前まで孫治郎において耕作し、稲、甘しよ、らつきよう等の収穫を得ていた農地(本件土地が本件売買契約当時農地であつたことは控訴人らと被控訴人四ツ橋との間においては争いがない。)で、被控訴人四ツ橋も右土地を耕作目的で買い受けたこと、右買受後同被控訴人は右土地を耕作し、昭和四三年一〇月ころまでこれを継続したことが認められ、当審証人木村元昭の証言、原審における被告藤井平治本人尋問の結果中、右認定に抵触する部分は前掲の各証拠に比照してにわかに措信し難く、成立に争いない乙第三号証、当審における控訴人木村英雄本人尋問の結果によつて控訴人ら主張どおりの写真であることが認められる検甲第一ないし第一一号証、原審における検証の結果も未だ右認定の妨げとはならず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件売買契約は農地法三条の許可を法定条件とするものであるから、右売買契約により、買主たる被控訴人四ツ橋は売主たる孫治郎に対し農地法三条の許可申請協力請求権を取得したというべきである。

3  ところで、被控訴人四ツ橋は許可申請協力請求権が時効消滅することを争い、その余の被控訴人らは右請求権は物権的請求権であるから消滅時効にかからないと主張するので判断するに、許可申請協力請求権は、許可により初めて移転する所有権に基づく物権的請求権、または所有権に基づく登記請求権に随伴する権利のいずれでもなく、売買契約に基づく債権的請求権であり、民法一六七条一項の債権にあたるから、本件において被控訴人四ツ橋が孫治郎ないしその相続人らの控訴人らに対して有する許可申請協力請求権は本件売買契約成立の日から一〇年の経過により、時効によつて消滅するものといわなければならない。

4  そして、本件売買契約成立の日は前記のように昭和三一年一二月一五日であるから、他に再再抗弁事由のない限り、同四一年一二月一五日の経過により右請求権は時効によつて消滅したというべきであり、これにより法定条件は不成就に確定し、本件土地の所有権は被控訴人四ツ橋に移転しないことに確定したというべきである。

五  そこで、その余の被控訴人らの再再抗弁について判断する。

1  その余の被控訴人らは再再抗弁(一)において、控訴人らは再抗弁に対するその余の被控訴人らの認否の(2)の(ア)、(イ)の事実により、また、昭和四八年七月二六日付内容証明郵便により、いずれも藤井に対し本件土地についての本登記手続義務を承認し、もつて時効利益の放棄をしたと主張するので判断する。

(一) まず、その余の被控訴人らは、再抗弁に対する認否の(2)の(ア)として、本件付記登記経由の直後、藤井は控訴人らに対し、右付記登記経由の事実を告げたところ、控訴人らは本件地位譲渡契約による買主の地位譲渡を承諾し、右付記登記に基づく本登記手続をすることをも承諾したと主張するところ、当審証人木村元昭の証言、原審における被告藤井平治本人尋問の結果によるも、未だ右事実を認めるに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(二) 次に、その余の被控訴人らは、前同(2)の(イ)として、控訴人らは昭和四六年ころにも藤井が本登記手続を依頼した司法書士松本広志に対し、本登記手続をするための書類である控訴人木村志川、同木村雅子の相続権放棄証明書、印鑑証明書各一通ずつを預けており、このことからしても、控訴人らの右承諾の事実は明らかであると主張するところ、松本広志作成部分については原審における被告藤井平治本人尋問の結果によつてその成立が認められ、その余の部分については成立に争いない乙第二号証、当審証人木村元昭の証言、原審における被告藤井平治、原、当審における控訴人木村英雄各本人尋問の結果によれば、控訴人木村志川、同木村雅子は昭和四六年二月ころ本件土地の一部に関する相続権放棄証明書、印鑑証明書各一通合計四通の書類を松本広志司法書士に預けたことはあるものの、これを知つた控訴人木村英雄は同司法書士に対し「本件土地の一部に関する控訴人木村志川、同木村雅子の相続権放棄証明書、印鑑証明書各一通合計四通の書類を貴殿に預けていたところ、貴殿は無断で右書類を藤井に渡した由であるが、当方まで返還を求める。」旨を記載した内容証明郵便を送付したところ、松本広志は右郵便の末尾に「右の通り控訴人木村英雄より請求があつたので大至急返却されたい。」旨を付記したうえ右郵便を藤井に転送したこと、藤井は右に応じ右書類を松本広志に返却し、同人はこれを控訴人木村英雄に返還したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はないので、控訴人木村志川、同木村雅子が昭和四六年二月ころ本件土地の一部に関する相続権放棄証明書、印鑑証明書各一通合計四通の書類を松本広志司法書士に預けた事実から、ただちに控訴人らの右承諾の事実を推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(三) 次に、その余の被控訴人らは、控訴人らは昭和四八年七月二六日付内容証明郵便により藤井に対し本件土地についての本登記手続義務を承認したと主張するところ、成立に争いない乙第一号証によれは、控訴人木村啓二が控訴人ら代表の肩書を付して藤井に対し昭和四八年七月二六日付内容証明郵便を発送したことはあるものの、その大筋の内容は、藤井からの控訴人木村英雄あて同年同月一八日付内容証明郵便で要求のあつた、本件土地の所有権移転のための相続放棄の証明については、これを拒否するという趣旨のものであることが認められるので、控訴人らが昭和四八年七月二六日付内容証明郵便によつて藤井に対し本件土地についての本登記手続義務を承認したということはできず、他に右事実を認むべき証拠はない。

(四) よつて、控訴人らが、再抗弁に対するその余の被控訴人らの認否の(2)の(ア)、(イ)の事実又は昭和四八年七月二六日付内容証明郵便により藤井に対し本件土地についての本登記手続義務を承認したことを前提とする、その余の被控訴人らの右再再抗弁は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。

2  その余の被控訴人らは再再抗弁(二)において、孫治郎は農地法三条の許可を得る努力をせずに死亡し、その相続人である控訴人らも右努力を怠つたことを前提として、このような控訴人らが許可申請協力請求権の時効消滅を主張することは信義則に反し権利の濫用であると主張するので判断する。

原審証人四ツ橋しげ子の証言、原、当審における控訴人木村英雄本人尋問の結果によれば、本件売買契約直後、孫治郎と被控訴人四ツ橋とは農地法三条の許可申請手続をなすべく農業委員会へ赴いたが被控訴人四ツ橋に農地の買受資格がないため許可が得られず、同委員会から、しばらく農業を続けたのち再度許可申請をするようにとの示唆を受けたことから、同被控訴人はその数年後再度農業委員会に相談したものの良い返事のないうち孫治郎は死亡した。同被控訴人はその後も農業委員会に相談をしてみたが、なお、良い返事がなかつたため、控訴人らに申請協力方を求めることもないまま推移したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、孫治郎が農地法三条の許可を得る努力をせずに死亡し、その相続人である控訴人らも右努力をしなかつたということはできないので、右事実を前提とし、控訴人らの消滅時効の主張について権利濫用をいうその余の被控訴人らの再再抗弁は失当である。

3  その余の被控訴人らは再再抗升(三)において、仮に昭和四一年一二月一五日に許可申請協力請求権が時効消滅したとしても、本訴はその後九年余を経過した同五一年二月九日に提起されているところ、九年余にわたり控訴人らから藤井に対しなんらの請求もなかつたことは、控訴人らにおいても本件土地につき藤井の所有権を黙示的に認めていたといえるもので、本訴請求は著しい権利濫用に該当すると主張するので判断する。

本件訴訟記録によれば本訴提起の日は昭和五一年二月九日であることが認められるので、昭和四一年一二月一五日に許可申請協力請求権が時効消滅したとすれば、以後本訴堤起まで九年余の期間が経過したことは右被控訴人らの主張のとおりである。しかしながら、この点については前記1の(二)、(三)で認定の事実があるほか、成立に争いない甲第一号証の一によれば、控訴人木村志川を除く控訴人らは昭和四六年六月三日被控訴人四ツ橋に対し本件仮登記の抹消を求める内容証明郵便を送付しているが、その文中で、本件売買契約の日から一五年半を経過していることを理由に時効を援用する旨を記載していること、及び前掲の乙第六、第七号証、原審における控訴人木村英雄本人尋問の結果によれば、控訴人らが昭和五一年二月まで本訴提起をしなかつたのは、同四六年九月既に被控訴人四ツ橋が藤井を相手方とし本件土地について本件付記登記の抹消登記手続とその引渡を求めて提訴していたため、その結果を待つていたことによるものであることがそれぞれ認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の各事実関係によれば、控訴人らにおいて本件土地につき藤井の所有権を黙示的に認めていたとはいえず、他に右事実を認めるに足りる証拠もないので、右事実を前提として本訴請求が著しい権利濫用であるとするその余の被控訴人らの右主張は失当である。

五  以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、本件土地の所有権に基づき、被控訴人四ツ橋に対し本件仮登記の抹消登記手続、その余の被控訴人らに対し本件付記登記の抹消登記手続及び右土地の明渡を求める控訴人らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容すべきものである。

第二  その余の被控訴人らの反訴請求について

一  反訴請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがなく、同(三)の事実についての判断は、本訴におけるその余の被控訴人らの抗弁(3)の判断と同じである。

二  次に、控訴人らの抗弁についての判断は本訴における控訴人らの再抗弁の判断と同じである。

三  更に、その余の被控訴人らの再抗弁についての判断も本訴における同被控訴人らの再再抗弁の判断と同じである。

四  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件土地の買主の地位を譲り受けた藤井の相続人であることを理由として、控訴人らに対し、藤井のため本件仮登記に基づく所有権移転の本登記手続を求める同被控訴人らの反訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものである。

第三  結論

してみれば、原判決中、右判断と異なる本件土地に関する部分は不当で、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条によつて右部分を取り消して、右部分に関する控訴人らの本訴請求をいずれも認容し、被控訴人四ツ橋を除くその余の被控訴人らの反訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について同法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

目録

一 兵庫県赤穂市塩屋字ハブ三三〇五番一

田    一五五平方メートル

二 同所三三〇六番

田    一一九平方メートル

三 同県同市塩屋字横谷三三〇八番

田    六八四平方メートル

四 同所三三〇九番

田    二三一平方メートル

五 同所三三一八番

田    三六三平方メートル

六 同所三三一九番

田    五〇九平方メートル

七 同所三三四九番

田    二〇四平方メートル

八 同所三三六三番

田    一二八平方メートル

九 同所三三六四番

田    三八三平方メートル

一〇 兵庫県赤穂市塩屋字横谷三三六五番

田    六五四平方メートル

一一 同県同市塩屋字大林三三六六番

田    二九七平方メートル

一二 同所三三七四番

田    二四一平方メートル

一三 同所三三七五番

田    九五平方メートル

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